近代と文化を考える5冊


近代日本、というトピックでは、僕はあんまり幕末の志士とかそういう勇ましい話には興味なくて(インドア派の軟弱者なので)、政治や軍事の歴史よりも、普通の人がどうだったのかとか、身近な文化はどう変わっていったのかみたいなことに興味を引かれます。
そのあたりから、オススメの本を5冊ほど紹介してみます。以下は、雑学ネタ的なエピソードもありつつ、背景となる大きな枠組みの見方まで変わってくるところもある、面白い本だと僕は思ってます。



とんかつの誕生―明治洋食事始め (講談社選書メチエ)

とんかつの誕生―明治洋食事始め (講談社選書メチエ)

食べ物に関しては結構面白い本がいろいろあるのですが、とりあえずこれ。
日本料理でも西洋料理でもない「洋食」という特異なジャンルが、明治以来いかにして展開してきたか。明治の肉食のはじまり(明治天皇とかが率先して肉食ってたんですよね)から、あんパン、そしてある意味「洋食」の完成ともいえる、とんかつの誕生に至るまで。僕にとっては食文化の歴史に対する興味(昔の人は何食ってたんだ?)を開かせてくれた本です。


「健康」の日本史 (平凡社新書)

「健康」の日本史 (平凡社新書)

健康のために運動を、というのは日本ではやはり明治以降のことでした。江戸時代には誰も運動なんかしてなかったのに、どのようにそれが浸透していったのか。明治の徴兵制とからめて、軍隊の訓練と運動の関係、江戸時代のそれから変化していった健康に対する見方など、様々な要因との関係で戦前まで日本人の間で形成されていった健康という観念を追っていて興味深いです。


遅刻の誕生―近代日本における時間意識の形成

遅刻の誕生―近代日本における時間意識の形成

日本は明治6年1月1日から、暦法を西洋式のグレゴリオ暦に変更しました(明治5年の12月は2日までしかなくて、残りをすっとばして次の日は年明けっていう大胆な変更だったんですよね。12月の月給はどうなるんだとかで揉めたとかなんとか)。で、工場労働者にしろホワイトカラーにしろ、徐々に時間に対する意識のありようってのが変わってくる。そのあたりを色々なトピックから読み解いていくアンソロジーです。学校で時間を守らせるという規律の訓練と、鉄道や工場を時間どおりに運営していくこととの関係とか…。この辺の話、新書とかで読みやすいのがあると面白いと思うんですけどねえ。


家事の政治学

家事の政治学

「家事労働」からの解放という夢 ― 家事を生活の一部というより一種の「労働」として捉えたとき、それは近代社会の中で変革を遂げた工場労働などと同じ「改革」の対象となります。フォーディズムテーラーシステムなどと同じ「合理化」という価値観が、現代の「システムキッチン」の土台でもあるんですよね。
デザイン史を専門とする著者の本では、日用品の文化誌 (岩波新書)もオススメ。


屋根の職人が案内する日本建築史。寺社建築の解説って気楽に読めるものが少ないと思うんですが、これは読みやすいです。職人による解説なので、実際どうやって作ってるのかとか、材料は何なのかという具体的なイメージが湧いてくるからでしょうね。茅葺きといっても、ススキと藁じゃそんなに違うのか、とか。
基本的には通史なので、近代については最後に短く触れられているだけなのですが、戦前の海外神社の問題ようなあまり知られていないことに言及してるのが良いと思います。