リチャード・ドーキンスの "The God Delusion"

この本(asin:0593058259)、実はまだ読み終わってません。僕の語学力ではこのペースが一杯一杯です…orz。日本語の何倍かかってるんだろう(おかげで今月は本代が浮いたけど)。でもまあ、あとちょっとです。もうすぐ読み終わりそうです。あわせて、ドキュメンタリーのビデオなんかもちょっと見たりしつつ読んでましたが、とても面白い本です。面白さのおかげで英語がツラくてもなんとか読了しそうです。


この本で、ドーキンスは徹底的に宗教を批判しています。批判されているのはいわゆるカルトや原理主義ではなく、またあからさまに反科学的な創造論者・ID論者などだけでもなく、むしろユダヤキリスト教そのものや、ごく普通のそれらの信者、さらには宗教の問題点を時には積極的に容認している知識人たちであったりします。宗教一般に対する批判なのですが、読者層を想定して特にユダヤキリスト教を中心にとりあげています。


前半では、「神」という仮説について様々な議論をとりあげ、神の存在に関する議論に反駁しつつ、4章の「Why there almost certainly is no God」に導きます。この過程で、ドーキンスは「non-overlapping magisteria(NOMA)」つまり科学と宗教はそれぞれ被らないのだ、というような考えもハッキリと批判し、また不可知論の弱さも指摘しています。もちろん「almost certainly」にあらわれているとおり、ドーキンスもまた厳密には不可知論者であるほかないことを認めますが、それはアポロンユニコーンについて不可知論者であるのと同様だと注意しています。


そこからの後半では、進化論的な考え方に基いて、宗教の起源についての仮説や、進化の途上で道徳性が発達してきた可能性などについて紹介し、聖書を道徳の源泉と考えることのおかしさを検討したりと、「宗教ぬきに考える」方法を様々に披露しています。そしてさらに、宗教の何が問題なのかを論じていきます。ドーキンスは、特に子供が宗教的な家庭で育てられることの危険性に注意を喚起しいて、充分な判断力のない子供に宗教的な価値観を刷り込むのは一種の虐待であり、是非とも止めさせるべきだと主張しています。


…ざっとこんな内容ですが(誤読してるとこもあるかもしれませんが)、抽象的な議論に偏りずぎず、比喩や例がとても豊富で読みやすかったです。
あとなんというか、相当な危機感をもって書いているという印象を受けました。序文には、1999年のギャラップ調査で、アメリカ人に対して「充分に能力のある候補者が次のような人々であった場合に、投票するか?」と質問した結果は:候補者が女性の場合(95%が投票すると答えた)、ローマ・カトリック教徒(94%)、ユダヤ人(92%)、黒人(92%)、モルモン教徒(79%)、ホモセクシュアル(79%)、無神論者(49%)となったという話が出ていました。うーむ、すごいなアメリカ。

ID論などについては多くの科学者が批判をしているようですが、一方で、あからさまに反科学的でない宗教については口をつぐむ科学者が多いという状況にもドーキンスは苛立っているようです。なぜ宗教だけが、それほど特別扱いされなければならないのか、それほどの特別な敬意を払われなければならないのか、と。

部分的には説得力に疑問が残る議論もあると思いますが、全体としては僕にとってはかなり同意できる所が多い内容でした。ただ、日本ではいわゆる「穏健な宗教」が深刻な問題になるような場面はあまりないので、例えばアメリカなんかではもっと違ったリアリティの中で読まれるんでしょうね。digg での反応とか見て想像するしかないかな。

で、次にダニエル・デネットBreaking the Spell: Religion as a Natural Phenomenon を読むかどうしようか考え中です。ちょうど良いタイミングでペーパーバックが出そうだし…。


ところで、この本についても触れている The flying spaghetti monster | Salon Books というインタビュー記事の翻訳も、面白かったですよ。

- しかし、穏健派の人々は過激派の末期的な思想に心を痛めています。


勿論、彼らは心を痛めていることでしょう。彼らはとても優しく、素晴らしい人達です。しかし彼らは人々 -- 特に子供達 -- に教義は疑う必要の無い高貴なものであると教え、このような世界にしてしまっているのです。それゆえ、彼らには傷つく権利はないのです。

こういうところに「穏健ならかまわない」とは考えないドーキンスの態度がよく出ていると思います。しかし僕が一番シビれたのは次の問答。

- でも重大な「何故」があるではないですか。何故私たちは存在するのでしょう? 私たちが生きる意味とは何なのでしょう?


それは答えるに値しない質問ですね。

カッコいい。