「水道屋の格好したのはコスプレ趣味」というコピペ

(追記あり)
(さらに追記あり)

光市の事件と裁判について書くのは、正直気が進まないんですけど。
弁護士のため息: 光市母子殺人事件とマスコミ報道3
のコメント欄に

コスプレだとか聞いて呆れるような弁護は批判されても仕方がないように思います。

というのがあって、「あれ、弁護側からコスプレなんて話が出てたっけ?」と思ってとりあえずググってみたら、かなりの数のブログに使われているコピペに気がつきました。そのコピペでの言い回しは「水道屋の格好したのはコスプレ趣味(だから決して計画的な犯行ではない) 」というものです。

Yahoo!ブログ検索 - 「水道屋の格好したのはコスプレ趣味」の検索結果


今年5月24日にあった差戻し審の初公判の直後に出てきたようです。痛いニュースで紹介されたスレの2で使われたコピペと同様のもののようです(強調引用者)。

死刑廃止派21人弁護団の素晴らしき主張
水道屋の格好したのはコスプレ趣味(だから決して計画的な犯行ではない)
・姿を消した母親の寂しさを紛らわす為、抱きついたら偶発的に起こった事件
・ママゴトのつもりで遊んでた(床に叩きつけまくるママゴト遊びらしい)
・泣き止ませようと思って首にリボンをちょうちょ結びにしてあげたら死んじゃった (だから、傷害致死です)
・女性に抵抗されたから首を押さえたらなんか死んじゃった (だから、傷害致死です)
・女性を生き返らせる為に死姦した (被害者の救命措置を取りました、情状しろ!)
・精神の発達が遅れている 12歳児程度 (少年法にもあるとおり、18歳未満の死刑は出来ない)
ーーーーーーーーーーーー
・「死姦は救命行為と主張」@報すて
・性行為は被害者の生命を救うための魔術的な儀式であり被告は精子が人間を復活させると信じていた@報ステ


このコピペの中には「床に叩きつけまくるママゴト遊び」という表現が出ていますが、弁護側の主張は「叩きつけた事実はない」というものですから、このコピペが弁護側の主張を正確に伝えるものでない、ということがまず言えます。


その上で「水道屋の格好」ですが、少なくとも昨年の最高裁の時の弁論では、次のように言われています。

(3) 被告人は、会社のネーム入り作業服を着ており、容易に犯人が特定される格好をしており、犯罪行為を行おうとする服装ではないこと(甲2…現に、この服装が原因で被告人が犯人であると判明している)。
(4) 排水管の検査を装った戸別訪問にあっても、被告人は、会社の名前を名乗っており(甲141)、およそ強姦する目的をもった戸別訪問の仕方ではないこと。
―『年報・死刑廃止2006 ― 光市裁判』p.77

被告が着ていた作業服は、ネームの入った当時の勤務先のものであり、また「検査を装った」訪問をするために着ていたことがわかります。ここから計画性の有無についてどう考えるかは別として、確かに弁護側の説明は服装と計画性を結びつけてはいるものの、「コスプレの趣味」という表現は見あたりません。

ただし最高裁での弁論の時点では「魔術的な儀式」や「ドラえもん」も出てこなかったわけですから、この公判で初めて「コスプレ趣味」が出てきた可能性ももちろんあります。


そこでさらに調べてみたのですが、5月24日、25日あたりだと新聞系のニュースサイトは記事が消えているところが多くて(ホント使えねー!)、なかなか見つかりません。あるのはたとえばこんな記事。
差し戻し審初公判、弁護側「更生可能」と主張 : 光母子殺害・差し戻し控訴審 : ニュース!まとめ読み : 九州発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
ほかにもいくつか記事を見つけて読んでみましたが、僕が探せた範囲では「コスプレ趣味」がどこから出てきたのか、わからない。


しかし、たとえば上のコピペは安田好弘はてなキーワードにもそのまま転載されています(今の時点の魚拓)。また、Wikipedia でも5月25日版に弁護側の主張として「コスプレの趣味」が追加されています(直前の版との差分。現在の版には無い)。そしてさらに、多数のブログでコピペが繰り返されてきたようです。ブログの中には Wikipedia を引いているものもあります。

そして、数が多いのですべて確認したわけではないのですが、これらのブログのエントリの中で少なくとも僕が読んだ範囲では、この「コスプレ趣味」について、さらには上記のコピペの内容について、報道や公式な記録といった形での内容の出所を確認していた人は見つけられませんでした。


ここまで来て僕としては、この「コスプレ趣味」はどこかネット上が発祥で(2ch かどうかはよくわからない)、弁護団が言ったことではないのではないか、と考えています。もちろん僕の見落しである可能性はあります。もしそうなら、誰かが指摘してくれると助かるのですが…。
しかし、仮に僕の見落しだとしても、2ch からコピペしてくるときでさえ少なからぬ数の人が信憑性についてまったく無頓着、であることには変わりないのではないでしょうか。これについては、ブログに引用した人のほとんど誰も情報源をチェックしてないのではないのではないか。少なくとも報道の引用から「コスプレ趣味」という内容を出している人は、僕が見たかぎりでは皆無でした。

追記

はてなダイアリーでの「水道屋 コスプレ」検索結果を見ると、はてなでも取り上げてる人が結構いるようですね。この中に「コスプレ趣味」の情報源をチェックした人はいないのかなぁ。僕も今ごろ気づいたわけですし、コピペを使ったからといって批判しようというわけではないのですが…。

さらに追記

愛・蔵太の少し調べて書く日記 - 光市母子殺害事件・被告の「水道屋さんの格好」は「コスプレ」なのかそれ以外なのか
で、調べてくださってます。どうやら「ママゴト遊び」が「コスプレ趣味」に変化した、というのが実際のところのようですね。ご指摘のとおり、おそらく「ママゴト遊び」という言葉も弁護団の意見書には書かれているものと考えてよさそうです。僕も、弁護団が言っていたとしても「コスプレ」という言葉そのものはおそらく使っていないだろうと思って、ありそうな言いかえでいくつか探してはみたのですが、これは気づきませんでした。難しいなぁ。


弁護の内容としても、「検査を装った戸別訪問」から「ママゴト遊び」への変化は、全然違うとは言えませんがそれなりに大きいように思います。最高裁での弁論要旨からの変化としては、外から見た事実関係だけでなく被告の内面にまで言及しているという意味で、「魔術的な儀式」「ドラえもん」と同様の方向性をもった変化といえそうです。


あと「ママゴト遊び」と「コスプレ趣味」の間にどれくらいの差があるか、という点については、微妙なところだと思います。言い換えがおきること自体は現象として理解できますが、意味や印象が変わらないかというとそうも言えないでしょう。また、これだけの違いで被告や弁護団に対する評価を変える人はほぼいないでしょうが、「ママゴト」に比べると「コスプレ」では弁護側の他の主張の中で見たときにかなり唐突という感じがします。


コピペについては…全体を見れば、とうてい公平とは言えない調子で書かれているので、流布は勘弁してほしいですね。