国連自由権規約委員会の批判を無視して死刑を続ける国、日本

法律上、事実上の廃止を合わせると世界の70%以上の国が死刑を廃止している。存置国の中でも2007年に死刑執行を実際に行った国はわずか24カ国である。東アジアを見ても、韓国では10年間、台湾では2年半の間死刑執行は行われておらず、中国でも近年執行数は激減している。G8諸国で日本のほかに唯一死刑を執行している米国でも死刑執行は抑制傾向にある。

僕も何度も言及していますが、世界的な傾向としては死刑廃止、または執行数の減少という方向にあることは、すでに知っている人にとっては常識となりつつあります。が、もっともっと周知されるべきだと思います。諸外国を真似ろというのではなく、死刑が「当たり前」でもなんでもない、我が国の積極的な選択なのだという認識のために。


死刑廃止、前向きに検討を=日本政府に勧告-国連委(時事通信) - Yahoo!ニュース

で、今月、国連の自由権規約委員会からは様々な論点を巡って厳しい内容の勧告が出されたわけですが(末尾にコピペしておきます)、Yahoo!ニュースのコメント欄にあるような呆れるほかない反応が山盛り返ってくるのが世論の現状なのかもしれません。日本を中国のような国にでもしたいのでしょうか(その中国ですら執行数が激減しているわけですが)。あまりに馬鹿馬鹿しくて一々論評する気もおきません。もちろん、死刑存置派の人々の中には、上のような愚かな物言いに眉をひそめる人もいることとは思いますが。


中に「麻生首相はこんな意見は無視しろ」というのが見られますが、心配しなくてもガン無視です。先日も、2人の死刑が執行されました。今年はこれで15人、我々は殺したわけです。去年は9人。あまりにペースが上がりすぎて、もはやあまり関心を集めなくなってきているようで、非常に不気味に感じます。我々は、だんだん殺すのが平気になってきてるのではないか。


僕も死刑存置派の主張はだいたい理解しているつもりです。しかし、これだけ国際的な批判や、世界的な傾向に逆らって死刑を存置しつづけるわけですから、存置派は今後さらに強い説得力のある議論をしてもらいたいものです。存置の理由一つ一つを言うときには「世界的には廃止や抑制の傾向にあるが、しかし執行数を増やす理由は…」とつけてもらいたい。


念のためもう一度言いますが、諸外国の真似をしろと言っているのではありません。僕が死刑に反対する理由は過去に何度か書きました。たとえばこれ。
http://d.hatena.ne.jp/good2nd/20080425/1209128075
あるいは、抑止効果についても書きました。
http://d.hatena.ne.jp/good2nd/20070901/1188667970


ネットを情報源として活用している人々には半ば常識となっていると思いますが、日本の治安は決して極端に悪化などしていませんし、警察の捜査には様々な不備・問題があります。司法にも。にもかかわらず、とりかえしのつかない刑を支持しつづけるのは何故ですか?


「仮釈放のない終身刑がないかぎり死刑は廃止すべきでない」という意見がありますが、これはおかしい。仮釈放をしないという決定は、更生が不可能であると断言できないかぎり行えないはずです。いったい、そんな未来のことがわかる人間がいるのでしょうか?予知能力でももっているのでしょうか?

また、このような意見を言う人は本当に「仮釈放のない終身刑」が実現すれば死刑を廃止してもよい、と考えておられるのでしょうか。もし本当にそうならば、その人は死刑廃止「条件付きで賛成」だと言ってもらいたい。僕は批判しますが。少なくとも「仮釈放のない終身刑」に実現の見込みがないと当てこんで、口先だけで言っている人ばかりではないと願いたいものです。あるいはそこで「終身刑には金がかかるから」などというのであれば、結局何があっても死刑廃止には反対なのだから、終身刑を云々するのは金輪際やめてほしい。

(おまけ)自由権規約委員会の対日審査の最終報告書から

http://www2.ohchr.org/english/bodies/hrc/hrcs94.htm
にある Concluding observations of the Human Rights Committee (CCPR/C/JPN/CO/5. 30 October 2008.)(docファイル)から、死刑に関連する部分を抜粋しておきます。

(追記)日本語での説明は、日本:自由権規約委員会の最終見解発表 日本の人権保障政策のグランドデザインが示される | ニュース | AMNESTY INTERNATIONAL JAPAN で読めます。(追記ここまで)

16. While noting that in practice the death penalty is only imposed for offences involving murder, the Committee reiterates its concern that the number of crimes punishable by the death penalty has still not been reduced and that the number of executions has steadily increased in recent years. It is also concerned that death row inmates are kept in solitary confinement, often for protracted periods, and are executed without prior notice before the day of execution and, in some cases, at an advanced age or despite the fact that they have mental disabilities. The non-use of the power of pardon, commutation or reprieve, as well as the absence of transparency concerning procedures for seeking benefit for such relief, is also a matter of concern. (arts. 6, 7 and 10)


Regardless of opinion polls, the State party should favourably consider abolishing the death penalty and inform the public, as necessary, about the desirability of abolition. In the meantime, the death penalty should be strictly limited to the most serious crimes, in accordance with article 6, paragraph 2, of the Covenant. Consideration should be given by the State party to adopting a more humane approach with regard to the treatment of death row inmates and the execution of persons at an advanced age or with mental disabilities. The State party should also ensure that inmates on death row and their families are given reasonable advance notice of the scheduled date and time of the execution, with a view to reducing the psychological suffering caused by the lack of opportunity to prepare themselves for this event. The power of pardon, commutation and reprieve should be genuinely available to those sentenced to death.

17. The Committee notes with concern that an increasing number of defendants are convicted and sentenced to death without exercising their right of appeal, that meetings of death row inmates with their lawyer in charge of requesting a retrial are attended and monitored by prison officials until the court has decided to open the retrial, and that requests for retrial or pardon do not have the effect of staying the execution of a death sentence. (arts. 6 and 14)


The State party should introduce a mandatory system of review in capital cases and ensure the suspensive effect of requests for retrial or pardon in such cases. Limits may be placed on the number of requests for pardon in order to prevent abuse of the suspension. It should also ensure the strict confidentiality of all meetings between death row inmates and their lawyers concerning retrial.