普通に批判してると思いますけど


おひさしぶりです。

麻生総理がフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで

過去15年間の経験のおかげで、私たちはどういう対策が必要か承知しています。それに対してアメリカや欧州各国にとっては、今回のような経験は初めてかもしれない。財政出動の重要性を理解している国もあれば、理解していない国もあって、だからドイツは(財政出動に消極的な)発言をしているのだと思います。

と発言したことについて、

麻生首相がドイツを名指しで「批判」 - MSN産経ニュース

とかの記事が出て、これについて、

情報の一次ソースをたどる限りでは、麻生首相G20の前にFT紙とのインタビューにおいてドイツを「名指しで批判した」と解釈できる表現を見つけることは出来ないし、それに関連する「日本国内の」報道も、疑問符を投げかけざるを得ないようなものが多い。

と指摘するエントリがはてブに上ってました。


僕の理解では、インタビュアーは「ドイツ首相は財政出動について問題提起しているが」と問いかけ、麻生総理がそれに「ドイツは財政出動の重要性を理解していないからそう言うのだろう」と答えているわけで、これは普通に「批判している」と解釈しても全然おかしくないと思うんですよね。ぶっちゃけ「あいつらわかってないんだろ」って意味でしょこれ。もちろん議論の場なのだからある程度の批判のやりとりはあるだろう思いますが、今回のG20では各国がどれだけ協調できるかということ自体も重視されていたわけで、そういう意味では不用意に批判的な発言をして亀裂を見せるのはよろしくない、という意見だって当然あるだろうと思います。麻生の主張自体の当否はおくとしても、です。


それから Die Welt の記事で「日本がメルケルの経済政策を攻撃した」という記事を出したのは事実なので、毎日新聞の記事は単に事実を伝えているだけかと。一方、じゃあ Die Welt だからそういう言い方をしたのかっていうと、穏健左派ということになってるらしい sueddeutsche.de の記事

G-20-Treffen in London - Angst vor dem Schlaffi-Gipfel - Wirtschaft - sueddeutsche.de

でも Japan kritisiert Deutschland (日本がドイツを批判) という一節があるし、こちらには毎日で取り上げられているメルケルの発言についても言及があります*1。あるいは Frankfurter Allgemeine Zeitung の記事でも Japan kritisiert Bundesregierung (日本が連邦政府を批判) という節があります。


麻生総理がドイツを「批判した」という表現をしてるのは、ドイツ語の記事だけでなく英語の記事でも見つかります。ざっと検索しても、例えば

Wading into that debate was Japanese Prime Minister Taro Aso, who criticized Germany's fiscal spending to date.

Another attendee, Japanese Prime Minister Taro Aso, who is preparing an additional fiscal stimulus for Japan's ailing economy, criticized Germany for resisting calls to further boost its own spending plans.
Dollar slightly higher vs. most rivals, as G20 leaders convene - MarketWatch

とか(強調は引用者)。ちなみにロイターの記事で知ったのですが、これって FT 紙の一面トップに出た話のようですね。

それから TIME に出ていた記事でも、ジェラルド・カーティスにこんな風に言われています(強調は引用者)。

At the summit, Japan backed calls by the U.S. for greater fiscal spending to combat the recession ? moves opposed by leaders of several European countries including France and Germany, who fear that unchecked government spending will lead to rampant inflation. But Aso dismissed German Chancellor Merkel's caution about fiscal stimulus before heading to London. "The fact that he picked a fight with Merkel plays very well -- like he's one of the big boys," says Gerald Curtis, a professor at Columbia University who has written extensively about Japanese politics. "He looks like a leader. Even though people are nervous about increasing the deficit, he's coming across as a leader who has a view on what to do."


まあ、上に挙げたような記事はどれもこれも FT の記事を表面的になぞっただけであって、実際には麻生はドイツを批判してなんかいない、という見方も(僕にはよくわかりませんが)できるのかもしれません。でも少なくともこの件に限っては「だから日本のマスゴミは」という話になるのは変だと思うし、「麻生がドイツを批判」という解釈も別に捻じ曲げでも無理筋でもなんでもない、ごく自然な普通の理解なんじゃないかな、と思うのです。


実際におかしな伝わりかたをするケースが少なくないからマスコミに対する検証や監視が重要だ、という認識は僕ももっています。どうでもいい揚げ足とりも不要だとも思います。でもなんというか、マスコミがデフォルトで政権批判に傾くのは、それ自体としては別に問題だとは思いませんけどね。だってもし逆に、どの新聞を見ても(保守であれリベラルであれ)政権を褒め称える記事ばっかり並んだりしてたら、冗談抜きでヤバイと思いません?

*1:僕はドイツ語はほとんどわからないので英語に機械翻訳して読んでますけど