日本ユニセフ協会の「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンの問題点


Yahoo! の特集ページにある統計のグラフを見ると、児童ポルノによる検挙数は2005年には470件にのぼっており、決して小さな問題とは言えないでしょう*1児童ポルノの生産・流通は被害児童に対する重大な人権侵害であり、是非とも撲滅すべき非人間的な犯罪だと思います。


しかしながら、日本ユニセフ協会による今回のキャンペーンには大きな問題があり、残念ながら僕はこれに署名することができません。
日本ユニセフ協会・特集 子どもポルノから子どもを守るために
問題は大きく3つあります。単純所持の処罰、非実写ポルノの規制、児童を演じるポルノです*2

単純所持の処罰

児童ポルノの単純所持が違法でない状態では、一旦流通した児童ポルノは消費者の手に残り続けることになります。制作者や販売者が処罰された後でも、それが消費され続けるならば、被害児童は真に救済されたとは言いがたいでしょう。したがって、単純所持自体が被害児童の人権侵害であるという考えは、僕には充分理解できるものです。


問題は、福島みずほ議員が次のように端的に指摘しています。

捜査の可視化も証拠開示もされず、代用監獄があるなかで、児童ポルノ単純所持を処罰して大丈夫だろうか。

また日弁連は2003年の意見書において

5 児童ポルノの単純所持は処罰の対象とすべきでない。

児童ポルノの定義が曖昧であり、単純所持にまで処罰を拡大することにより、処罰範囲が捜査機関の主観により拡大する危険がある。児童ポルノの流通の抑制は、営利目的による製造、販売の厳格な摘発、処罰と、教育啓発活動によるべきである。

上記選択議定書にも、単純所持処罰を義務づける条項はない。

という意見を出しています。(「上記選択議定書」は「子どもの売買、子ども売買春および子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書」を指します)


僕としては、単純所持を処罰の対象とすることそのものには、実は賛成してもよいと思っています。しかし、そのための条件が整っていないのです。警察による恣意的な運用を抑えられるという保障、捜査の可視化、代用監獄の撤廃などがその条件です。従って、僕に言わせれば単純所持の処罰を実現するのに一番邪魔なのは、現在の警察のあり方そのものなのです。
日本ユニセフ協会は、単純所持の処罰を実現すべきと考えるなら、このキャンペーンではそうした問題点の解決を「警察に対して」求める、ということを同時にするべきだと考えます。

非実写ポルノ

 呼びかけ人の後藤啓二弁護士によると、「準児童ポルノ」は「アニメ、漫画、ゲームソフトなどと、18歳以上の人が児童を演じるようなビデオなど」。アニメや漫画、ゲームソフトは「写実的なものに限られる。ちょっと漫画で子どもの裸を描いたからといって規制はありえない」という。

漫画、アニメ、ゲームなどの非実写媒体におけるポルノを規制することが、なぜ児童の保護のために有効なのか、その説明は全く説得力を欠くものです。これら非実写ポルノの流通によって性犯罪・性的搾取が助長されるという確かな証拠はありません。可能性があると言うならば、逆にそうした非実写ポルノによって性犯罪・性的搾取が抑制されている可能性だってあるはずです。可能性だけなら何とでも言えます。
その一方で、ポルノの規制は真正面から表現の自由とぶつかります。小児性愛それ自体(追記:児童との行為ではなく、そうした性向や欲望そのもの)を犯罪とすることはできないはずです。だとすればなぜ、被害児童が存在しないポルノについて、登場するキャラクターが子供であるというだけで特別扱いするのでしょうか。写実的だろうがなんだろうが、被害児童はいないのです。


秋葉原にでも行けば、子供のキャラクターが登場するポルノゲームは大量にあり、大きなマーケットになっていることがわかります。これ自体について僕は問題なしとするわけではありません。しかし非実写ポルノを特別に規制の対象にした場合、おそらくこれらのポルノゲームに対する取り締りが一斉に行なわれることでしょう。検挙も簡単であり、マーケットは大きく、警察にとっては点数稼ぎに最適だからです。僕は、その結果、本来の目的であるはずの児童ポルノへの対応が遅れる恐れがあると思うのです。
先の日弁連の意見書でも、こう指摘されています。

児童ポルノコミックの現状には、放置できないものがあるとの指摘はもっともである。しかし本法の保護法益は、実在の子どもの権利である。児童ポルノコミック規制を本法により行うことは、本法の保護法益を、刑法のわいせつ物陳列、頒布、販売罪の保護法益である「善良なる性風俗」に対象範囲を広げることになる。これは本法の目的をかえって曖昧にし、子どもの権利保護の実施を後退させる危険をはらむ。


非実写ポルノの規制は、わいせつ物に対する規制として行なわれるべきであり、児童ポルノの一種として扱うべきではないと思います*3

児童を演じるポルノ

もう一つ、全く意味不明な点がこれ。

 また「18歳以上の人が児童を演じる」については、「子どもと見分けがつかないような、例えばセーラー服を着ているとか」といったもので、「出演者の年齢確認ができないことをもってこうしたものがはんらんしているため」と説明した。ただ、「明らかに児童でない人の場合は対象外になると思う」とした。

これは一体なんなのでしょうか。どのように見えようが、大人であれば何の問題もないはずです。何を演じようが、彼/彼女は児童に被害を与えるわけではありません。むしろ「子供っぽく見えるポルノ俳優」に対する不当な制限ではないでしょうか。これを違法化するということは、つまり児童ポルノとそうでないものを誤認した場合でも、そのまま処罰してしまえるということではないでしょうか。「出演者の年齢確認ができない」ことが問題であるならば、ポルノの制作者に対して、年齢確認とその記録を義務づけるなど、もっと合理的な方法が考えられるはずです。全く無茶苦茶です。



児童ポルノの撲滅には賛成するし、また協力もしたいのですが、以上のような問題があるためにこの「なくそう!子どもポルノ」キャンペーンには賛同できません。本当に大事な問題である「児童の人権保護」に集中してくれれば何も文句はないのに、残念でなりません。

*1:検挙数であって、裁判で罪が確定した数字ではありませんが。

*2:日本ユニセフ協会の言う「準児童ポルノ」は用語として不適切なので、使わないことにします。

*3:もちろん現状では、わいせつ物への規制にも様々な問題がありますが、それはそれとして批判すべきものと思います。