「一杯のかけそば」の思い出


某所で「一杯のかけそば」という文字列を見かけまして、よみがえった記憶を。雑談ですが。


高校生のとき、先生数人と生徒数人で読書会みたいなことをやってた人たちがいたんです。あるときこれに誘われまして、行ってみました。もちろん僕は「美人の先輩が参加してるから」という極めて健全な動機で行くことにしたわけですが、ともかく、その時のネタがたまたま「一杯のかけそば」だったんですよ。なんか当時評判になってたのは知ってたので、まあいい機会と思って読んでみたわけです。しかし、やっぱりつまらなくてですね、その読書会の席では、あたりさわりのない優等生的な感想を述べてお茶を濁しました。内心「うへー、なにこのキモい集い…」と思いながら、でもまあ、学校という場所ではよくあることですから、いつものように(ヤなガキだ)。


ところがです。当時僕のクラスの担任だった古文の先生も参加してらしたのですが、この先生が、後になってたまたま二人になったときに「こないだのアレ、お前は面白かったか?」と訊ねられまして。うーん、と答えに躊躇してると「つまらんよなあ、あんなんじゃ。ああいうの読んでも全然面白いわけないよな?なあ?」とおっしゃる。思わず「ですよねー」と大喜びで同意してしまいました。
どうも「かけそば」をネタに選んだのは普段参加されていない先生だったらしく、その人がアレに感動しちゃって、生徒にも!みたいな気持ちだったらしいんですわ。担任の先生は「あの読書会は、いつもあんなんじゃないからな。次回は筒井康隆星新一の短編を読み比べるから。懲りずにまた来なさい」と。


僕は、ああ、この先生はやっぱりこういう人だったんだ、つまらないものをちゃんと「つまらない」と言ってくれる人だ、やっぱりそういう先生だっているんだ、と大変嬉しく思ったものでした。教養溢れるダンディな人だったなあ。普段の古典の授業でも、和歌の解釈なんかで性的な含意を面白おかしくツマビラカにしてくれたりして、いい先生でしたよ。お元気にしておられるだろうか。