映画『蟻の兵隊』
観てきました。評判良いようなので。大変興味深い作品でした。終始手持ちのカメラでの撮影らしく、ずっと画面がグラグラしていて見づらいと言えば見づらい映像でしたが。
初年兵として刺突訓練で中国人を殺害したことが長年心に引っかかっていた主人公の奥村さんが、当時を知る人の話を聞くべく山西省を訪れるというシーンが強烈に印象的です。逃走して処刑をまぬがれた人の息子と孫から話を聞くうちに、処刑された中国人に「それだけの理由があった」のではないか、と追求しはじめるんですよ。その息子さんに対して。その時の奥村さんの声の調子や表情というのが、なんともこう…軍人然としている。で、直後のシーンで「日本兵…になって追求していましたね…」とご自分で振り返っておられるんですね。あれだけ深く侵略戦争であったと認識し、自分の行った行為の真実を知ろうという人が、ある瞬間、(おそらくは)自己の行為を正当化する誘惑に捕われて「日本兵」に戻ってしまうという。このシーンで、何か強烈に真実を突きつけられた思いがします。あの奥村さんの声色や表情は文字ではとても伝わらないと思うので、それだけでも映像を観に行ってよかったと思います。
最後にもう一つ印象的なシーンとして、終戦記念日の靖国神社があります。参拝はしないという奥村さん、軍服で参拝する元兵士と覚しき老人、講演する小野田元少尉。「小野田さん!侵略戦争美化ですか?」「終戦の詔書を読みなおしてこい!」というやりとり。それぞれに、それぞれのリアリティがあるのだろうと思います。
けれども、その同じ場所に軍服のコスプレで軍隊ごっこをする若者、「2度と戦争に負けないぞ」と演説する中年男、「侵略じゃないわよ!」と叫ぶ小野田元少尉の取り巻きのおばさん…これらの人々は、ひどくおぞましい存在に見えてなりませんでした。ただただ、気色悪いばかりです。