代理母に固有の問題を批判してるのか、そうでないのか
厚生科学審議会の生殖補助医療部会というところが、2003年4月に「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」を出しています。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5.html
この中で、代理懐胎の禁止が言われている部分の要点は、
- 「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方に反する
- 妊娠・出産を代理する第三者にとってリスクが大きい
- 代理懐胎した人との間で、子を巡る深刻な争いが起こり得る
- 将来、再検討すべきだという少数意見もあった
といったところです。個人的な感覚としては、1)、2)については代理懐胎する人が充分に自発的で自由な意志に基づいてそれを行ない、かつ安全性がある程度見込める(まぁ「程度」が問題なのでしょうが)ような場合に、禁止できるほど強い理由になるのか、というのがよくわかりません。3)については実例があるそうですが、子を巡る争いは代理懐胎でなくても様々な理由によって起きるので、代理懐胎の場合にとくに争いが起きやすいのかとか、より深刻になりやすいのかとか、未然に防ぐ有効な手立てが全然ないのかとか、そういったことが気になります。
気にはなりますが、ここで挙げられているような事が問題とされること自体には、納得ができます。と同時に再検討があってもいいとも思いますが。つまり、問題を最小限にする条件の整備が可能かどうか、という方向で。
さて、最近話題になったケースでは、上の報告書でなされたようなものとは違った批判が多数見られました。僕はそのうちのいくつかの種類の批判について、よくわからないところが。特に「非配偶者から精子・卵子・胚が提供される人工授精」について批判者がどう考えているのかわからない事が多くて。これらはすでに認められていて、特に夫以外の男性からの精子提供はすでにかなり行われているらしく、誕生した子は嫡出子として認められているとのこと。
参考:DI研究会:非配偶者間人工授精の現状に関する調査研究会(DI研究会)
で、「親子関係が複雑になる」「不自然である」「子がその事実を知ったら悩むのではないか」といった批判も代理出産に向けてなされましたが、これらは代理出産だけではなく、非配偶者による精子・卵子の提供についても言えるはずのことです。こうした理由で代理母を批判するのであれば、非配偶者による精子や卵子の提供も批判すべきということになるのではないのでしょうか。さらに言えば、「複雑な親子関係」や「子が事実を知ったら」というのは、人工授精でなくても、本人に知らされなかった養子縁組といった場合にも言えるのでは?
非配偶者に提供を受けての人工授精を禁止せよと言うのでなければ、代理母に固有の問題だけに絞ってほしいなぁと。色んなものがまぜこぜに語られているような雰囲気なので。特に「親のエゴ」みたいな言葉が出てくると、なんだか話がよくわからなくなることが多いような。まぁ「そもそも人工授精には問題があるが、特に代理母に至っては容認できないほど問題の量が増える」という立場の人もいるのでしょうけれど。
ところで、向井亜紀さんのケースでも僕にはよくわからないところが。夫以外の精子による人工授精では嫡出子とされるとのことで、「妻が妊娠・分娩すること」が遺伝的な関係よりも重視されているということみたいですね。判例があるから法的にはそういう判断になる、という話はわかるのですが。しかし夫からみて遺伝的に他人でも妻が産めば嫡出子なのか…。それがいけないとは思いませんが、その一方で「遺伝的には完璧に実子」なのに「妻が妊娠・出産していない」という理由で実子として扱われないのは納得できない、というのはもっとものように思えます。特別養子縁組で結果的に同じになるじゃないか、というのもその通りではありますが、納得できるかっていうのとはちょっと違う話じゃないかなと。
うーん、夫の側は遺伝関係も問題にならないのに、妻の側だけは出産しないとダメ、というのはどうなのかなぁ、という。今以上に色々な出生がありうる、という時代になっていったときに、「分娩を特別視する」ことがいつまで妥当でありつづけるのかは、わからないんじゃないかな、と思いました。
向井亜紀さんが会見で言っていた「せめて父親になれませんか?」に「何か新しい世界が拡がってる感じ」がして妙に感動したので、ちょっとだけ考えてみました。