弁護団の言ってることがまるで伝わってないような


どうしても気になって、入手して読んでしまいました。まいったなぁ、どうも…。

以下はこの本に含まれてますが、Web で読めるものです。
光市事件における最高裁弁論要旨【1】
鑑定書 山口光市母子殺害事件
所謂事件名「光市母子殺害事件」 最高裁判決文


特に僕がわかってなかったこと、印象の強かったことを列挙してみます。


遺体の状況は検察が主張するような犯行の様子を裏づけていない。上野鑑定書の判断に間違いがあったとしても、母親の首に残った跡は「両手で全体重をかけて」という説明とは合わないのではないか。赤ん坊にも「高い位置から床に叩きつけ」たような傷はなく、首を絞めた跡もない*1。このあたりは今思い出してみると以前弁護団が会見で説明してたと思うけど、あのときは悲惨な犯行の様子を「詳細なイラストつきで」説明した弁護団に対する嫌悪感ばかり強調されてたし、少なくとも僕の頭にはこういう内容は入ってこなかった。


殺意の否認は差戻し審になって突然出てきたものではない。逮捕当日の調書でも殺意は否定しているし、一審でも否定している。しかし一審・二審では事実関係についてほとんど争われておらず、安井弁護士は、なぜ被告に事実関係について充分話を聞かなかったのか、と前の弁護人を批判しており、一審・二審は事実誤認だといっている。

被告人質問は、第1審では2回、原審では6回の合計8回行われている。しかし、被告人に対する総計約1200項目に亘る質問において、事実関係に関する質問はわずかに約20項目にとどまり、事実に関しては全く無視されているに等しい。とりわけ、第1審第4回公判において、被告人は、前述のとおり、つたない表現ではあるが、MAさんに対する殺害行為と殺意を否定し、また、Uちゃに対しても、曖昧ながらも、同じく殺害行為と殺意あるいは確定的殺意を否定しているのである。
 しかし、この被告人の訴えを、弁護人及び裁判所は目の前で聞いていながら、何ら問題としないまま、検察官が主張するとおりの虚偽の事実を認定してしまったのである。しかもその上、控訴審にあっても、事実について全く聞かれることはなかったのである。

もしも今回の被告の主張を「弁護団の作った話」だと考えるならば、自白についても「検察が作った話」である可能性を疑うべきだと思う。
それと誤解している人がいるようだけど、弁護人は心身耗弱など全く主張していない。死刑違憲も主張していない*2。弁護人が「死刑廃止に利用している」という話は、弁護人が死刑廃止論者だという以上に根拠のある話じゃない。普通に考えれば、死刑廃止論に「利用」できるような条件は、この事件については全くない。


例の「友人に宛てた手紙」は、拘置所の隣の房にいた人物で、学生時代の友人などではない。この「友人」が被告を「偽悪的にはやしたて」、それに煽られて書かれたものだという。このあたりは、前後の手紙の文脈がわからないと何ともいえない気がするけど、一審は少なくとも更生の可能性ありと判断したようだ。


ほかにもいろいろあるんですけど、うーむ…。最高裁の判決は、事実誤認という主張は「他の動かし難い証拠との整合性を無視したもので失当」で、また「第1,2審判決の認定,説示するとおり揺るぎなく認めることができる」とまで言いきっていますが、その理由、その根拠は判決文から読み取ることはできません。
少なくとも、素人目に見て「あっちが本当、こっちがウソ」などと簡単に言ってしまえるようなものとは思われません。


ただ、この本では「ドラえもん」や「魔術的な儀式」の話は全く出ていません。これについては弁護側の主張に変化があるわけですが、その背景についてはよくわかりません。あるいは弁護人はウソばっかり言っているのかもしれません。しかし僕にはそのように確信することはできません。

*1:追記:「手で絞めた跡」のことです。

*2:追記:この事件に関しては、です。