死刑の抑止効果が統計に表れないこと、執行数の増加と厳罰化
前のエントリで、最近の抑止効果を肯定する研究も結構強く批判されてるし「やっぱり抑止効果が統計的に証明されたとは言いがたい」と考えるに至ったわけですが、ついでにちょっと。
確かに「実際には抑止効果があるのだが、数が少ないために統計では表れない」ということなのかもしれません。もちろん、そうではなくて本当にあまり関係ないのかもしれません。死刑に抑止効果があるであろうと考えるのは直観的にも理解しやすいので、おそらく「多少は抑止効果があるはずなのだが、対象が少ないせいで統計に表れないだけだ」と考える人も結構いるのではないかと予想できます。
殺人に対する死刑制度の影響が統計に表れないとすると、確かにその可能性は排除されません。多少の抑止効果はあるのかもしれません。しかし、そう考えるのであれば逆の可能性、すなわち死刑制度が殺人を助長している可能性もまた、排除されていないということは認めなければならないのではないでしょうか。「何をバカな」と思う人もいるでしょうけど。でも死刑制度は「正義の殺人」を肯定する制度であるわけですから、「正義があれば殺人は悪ではない」という観念を支えてしまう、とか例えばそういう可能性だって無いとは言えないと思いますよ。
まあ、抑止効果にばかり拘って「効果があればOKなのか」という話になってしまうとまた微妙なんですけど。でも抑止効果を期待して死刑存置に賛成するというのはごく普通の考えなので、統計的研究は必ずしもその期待を裏付けない、ということはもっと知られてよさそうに思います。
さらについでなんですが、ちょっと妄想めいた話。長勢前法務大臣はその在任中に10人の死刑執行命令を出しましたが、どうも法務省では「省内では『執行を増やすのが大切だ』という意見が大勢を占めている」とのことで、執行を増やそうという傾向にあるようです。一方で、例えば少年による凶悪犯罪などは戦後を通じて減少傾向にあることは一部ではよく知られるようになってきましたが、マスコミの各種報道からはあまりそういう印象は受けませんよね。
それで、死刑の執行がここ一年間と同じように毎年2桁というようなハイペースに落ち着いた後で「実は少年の凶悪犯罪は減りつつあります」と強調されはじめたらどうだろう、とか思ってしまいました。実際には因果関係などなかったとしても、あたかも死刑執行の増加が抑止に繋っているかのような雰囲気は、案外いとも簡単に醸成されたりしちゃうんじゃないかなぁ、と。
いやいや、単なる思いつきです。なんか陰謀論めいてますけどね、ちょっとまぁ、心配になったりして。