放置と停滞が過激さを生む


以下、IHT の記事から。
For some young Tibetan exiles, Dalai Lama's 'middle way' is a road to failure - International Herald Tribune

Tenzin Wangdue, who has spent the last 11 days shouting slogans, including some that the Dalai Lama would shun, is typical of the new generation. While not rejecting the Dalai Lama's authority, he believes Tibetans have to push harder if they are going to get anywhere. "They're not going to give total independence," he said of China. "But I think there's hope they're going to accept genuine autonomy if we say we want total autonomy."

この11日間、ダライ・ラマなら避けるようなものも含んだスローガンを叫んできた Tenzin Wangdue は、典型的な新世代である。彼はチベット人が目標を達成しようとするなら、もっと強く出るべきと信じている。中国について彼は「彼らが完全な独立を与えることはない」という。「だけど我々が完全な自治を求めれば、彼らが本物の自治を受け入れる望みはある」


ダイ・ラマ14世が強調する「中道のアプローチ」は、チベットが中国からの独立を求めることなく、「高度な自治」を目指そうとするものですが、いうまでもなくチベットの人々もまた多様であって、様々な意見があるようです。

Yet, a handful of radical Tibetan exile groups have said angrily that the "middle way" has achieved nothing in nearly 30 years. They have called for an Olympic Games boycott, burned Chinese flags and refused to call off a march from here to Lhasa, Tibet's capital, which he has called impractical in opposing a mighty state intent on using force.

しかし、一部のチベット人亡命グループは「中道」はほとんど30年の間、何も達成してこなかった、と怒りをこめて言っている。彼らは、オリンピックのボイコットを呼び掛け、中国の国旗を燃やし、彼(ダライ)が武力の行使を意図している強力な国家に反対するには現実的ではないと言った、ここ(ダラムサラ)からチベットの首都ラサへの行進の中断を拒否した。


記事では何人かのチベット人の声を載せています。印象的なのは、ダライ・ラマが今でも尊敬を集める象徴的な存在だとしても、彼の発言を必ずしも全面的に支持するわけではない若い世代の人々です。ダライ・ラマが「中道」を掲げるのは、チベット人を守るための現実的な路線であって、本当なら独立のほうが良いのだ、と考える人も少なからずいるようです。


亡命政府は今のところこうした若く過激になりがちな人々をなんとか抑えているのかもしれません。土地を追われた人々の、その次の世代の人々は、前の世代の怒りや悲しみを受け継ぎ、その一方で忍耐はそれほど受け継がれていない、ということなのかもしれません。非暴力と「中道」を支持した30年間が成果をあげてこられなかったことが、若い世代の苛立ちとして表れているのかもしれません。
このような光景は、私達にとって目新しいものではないと思います。様々な場所に追われた人々はおり、次の世代に怒りと悲しみが伝えられ、世界の他の地域からは本当の真剣な協力を得ることができず、穏当な要求は力によって退けられ、無辜の人々が傷つけられ、ついには無謀とも思える形で怒りを爆発させてしまう、そのような出来事を、私達は何度も見てきたのではないでしょうか。


しかし、いまのチベットこそ「中道」の実現に近づいている、という考えもあるようです。

Rinpoche, 69, also a monk, gave three reasons: first, that China would find it impossible to continue to suppress by force; second, that public opinion had become divided in China; and third, that his government's demands for greater autonomy had widespread international support, which China, as an aspiring world power, could not ignore forever.
"If you talk about the long-term Tibet issue, I am very much hopeful," he said. "I never live in dreams. I live in reality, and in the present."
69歳のやはり僧である Rinpoche は3つの理由を挙げた。1つめは、中国は力で抑えつけるのは不可能だとわかるだろうということ。2つめは、中国の世論が分かれてきたこと。3つめは、亡命政府の自治拡大という要求は国際的な支持を広めており、それは世界的な力を得ようとしている中国にとっていつまでも無視できるものではないこと。
「長期的なチベットの問題については、私は大いに希望をもっています」と彼は言った。「私は夢を見ているのではなく、現実に、また現在に行きているのですから」


今回の騒乱が仮に中国当局の「力」によって制圧されたとしても、将来にわたってこのような状況が続き、チベットの人々の無力感や絶望が広がるならば、いっそうの悲劇を生むことになりかねないでしょう。やはり、日本政府には今、このまま何も主張せずにやりすごすのではなく、主体的な平和と人道のための外交をしてもらわなければならないと思います。