ドキュメンタリー映画『ビルマ、パゴダの影で』を観てきました


渋谷 UPLINK X という小さな映画館(ほんとに小さなスペースで、プロジェクターでの上映でした)で、アイリーヌ・マーティー監督『ビルマ、パゴダの影で』(2004年、スイス、74分)を観てきました。
観光番組の撮影と偽ってビルマに入り、観光省からのガイドから逃れて、タイとの国境地域にある難民キャンプなどを撮影し、人権侵害、とくに少数民族の弾圧の実体をとらえた映画です。政府軍に追われてタイ国内の難民キャンプに逃れたカレン人の人々や、シャン人の人々の苦しい生活が描かれています。これらの人々は、村や畑を焼かれ、働き手は組織的に行なわれている強制労働に狩り出され、多くの子供たちが親を政府軍に殺害されて失なっています。貴重な証言の数々はいずれも生々しく、想像以上にひどい実体を伝えてくれます。


昨年9月に起きた大規模なデモとその弾圧は、民主化を要求するものでしたが、少数民族に対する弾圧は民主主義の不在以上に深刻な問題といっていいと思います。少数民族を弾圧し、民主主義を求める人々に武力で応えるあのような軍政に対して、私たちの政府は、残念ながらあいかわらず友好的なようです。


今年1月17日には日メコン外相会議に軍政のニャン・ウイン外務大臣を呼んでいるんですよね。直後の会談では「国際社会の注目が集まっている今こそ、民主化、人権状況の改善に思い切った取組をとってもらいたい」と述べていましたが、外相会議と同じ17日に開催された「メコン地域投資促進セミナー」では、高村外相は

セミナーを契機に、既に多くの日本企業が進出しているタイやベトナムへの投資がカンボジアラオスミャンマーへと波及し、メコン地域全体の安定的発展が促進されることを祈念する。

という挨拶をしています。ビジネスはビジネス、人権は人権、ということでしょうか。
実際、セミナーの中ではウイン外相には進行役からこういう形で話を促されています。

(…)従いまして、この機会にミャンマー外資誘致政策について簡単にご説明ください。
また、ミャンマーは石油天然ガス、鉱物資源に非常に恵まれていまして、資源の少ない日本から見て非常にうらやましい限りです。日本の投資家の関心も非常に強いものがあります。この関連で、この分野の主要プロジェクトの外資誘致策について、或いは日本のビジネスコミュニティへの期待を含めてお願いします。
日メコン地域投資促進セミナー(PDF)

日本のビジネスコミュニティに対して投資を促すアピールをどうぞ!というわけです。


これは単に民間のビジネスという話ではなくて、例えば日石ミャンマー石油開発には政府が50%を出資しているんですね。政策としてビルマの軍政下での天然資源開発を行なっているんです。ENEOS社会貢献実績は素晴しいものと思いますが、その精神はビルマの人々の人権には向けられていないのでしょうか。


ヒューマン・ライツ・ウォッチは、先の日メコン外相会議に先立って高村外相に書簡を出しています。

日本は、融資や資金供与が、人権侵害を行う当局により悪用されていないことを確保するため、その方法や影響力についても注意深く精査する必要があります。例えば、日本の援助の相当金額が、ビルマ政府が設立・支配する機関を通じて、分配されています。2006年度、日本は、連邦団結開発協会(USDA)に対し、合計2600万円の資金供与を行いました。USDAが、ノーベル賞受賞者アウンサンスーチー氏とその政党支持者らに対する1996年11月のラングーンでの攻撃や2003年5月のデペインでの攻撃など、軍事政権に反対する人びとたちに対し、繰り返し、嫌がらせと脅迫を行ってきているにも関わらず、です。USDAへの資金供与は、軍事政権自体への資金供与とほとんど変わりがありません。

この書簡ではメコン地域の他の様々な問題についても取り組みを求めています。


去る3月13日は「ビルマ人権の日」だったそうです。デモに対する弾圧の中で、長井健司さんが殺害されてからもうすぐ半年が経とうとしていますが、まだまだ大きな進展はありません。それなのに私たちの政府は、軍政とビジネス面で協力していくことにはとても熱心なようです。日本からの出資については、マスコミでもあまり取り上げらていなかったように思いますが、これからも注意を払っておく必要があると思います。