ネグリが来られなかったシンポジウムに行ってみた


アントニオ・ネグリの来日が中止になったことで、かえって注目された感もなくはないシンポジウム「新たなるコモンウェルスを求めて」に行ってきました。ちなみに僕はネグリの本はまだ読んでません(汗)。


安田講堂には満席ではないものの結構人が入ってました。700人くらいということでした。プログラムは、吉見俊哉の挨拶が最初にあり、講演原稿の代読映像、姜尚中上野千鶴子が各20分程度で問題提起、休憩をはさんでディスカッションという流れでした。講演原稿の代読は、日本語での読み上げに、内容と関連したそれっぽい映像やネグリの映像を組み合わせたもので、短い時間でよく作ったな、と思いました。ディスカッションには、姜、上野と石田英敬鵜飼哲の4人によるもの。途中、一旦ネグリと電話でのやりとりがありました。電話は30分くらいでしたが、あらかじめ送られていた質問への回答がされました。答えられた質問は上野が提起したもので、まあやりとりといっても、ほとんどネグリが30分一方的にしゃべるという感じでした。通訳は、電話のあとでまとめてやられましたが、あんな長い話をまとめて通訳してて、とても大変そうでしたね。
ディスカッションの最初のほうで石田が話しているときに、なんかよくわからない中途半端なヤジが飛ばされてました。学生かな?意外とヘタレで、すぐにおとなしくなってましたけど。


議論の内容については、他のもっとよく内容をわかってる参加者がまとめて下さることと思いますので、興味深く拝聴したとだけ言っておきます。


ただなんというか、このシンポジウムには何かある奇妙さを感じざるを得ませんでした。ネグリは今回入管の問題で来日できなかったわけですが、にもかかわらずイベントがきちんと行なわれたこと、これを肯定的に「逞しさ」として見ることももちろんできますが(関係者の大変な尽力があったろうことは想像できます)、逆に変な感じもしてしまうんですよね。
これ、東大130周年記念事業の一部なんだそうです。ネグリが来日できなかったことに対する抗議は、最初の吉見の挨拶に含まれていましたが、シンポジウムの本編(?)ではほとんど話題にはされませんでした。まあ「抗議集会」みたいになってしまったら、それはそれで不毛だとは思いますが、抗議声明が出され、主催者挨拶でそれに触れられ、閉会後に姜尚中が「公の時間が終わりましたので」という前置きをして抗議声明に個人の資格で賛同したと言っていたのを聞くと、なんというかある意味型どおりというか非常に抗議そのものが形式化されてしまっているという感じを受けるんですよね。抗議することはもちろん大事だし立派だと思いますが、なんかそういう行動全体がシステムに包含されているその中で完結しちゃってるよなーとか思ってしまうんですよね。違法なことをやれとはもちろん言いませんが、なんというか、もっとクリエイティブな何かが欲しいと思いました。その意味では今回のイベントに芸大が関わっているのはすごく正しいとも思いました。


いやなんかさー、東大の記念事業の一環で公式に「抵抗」について議論するって、なんかその構図って奇妙じゃありません?いやもちろん、よくある普通のことなんだけれどもね。それで、ネグリの来日が中止になっても、あたかも「何ごともなかったかのように」イベントがつつがなく行なわれていくっていう。滑稽とは言いませんし、揶揄するつもりも全然ないんですが(関係者の努力は本当によくわかります)、なんかものすごーく囲いこまれてるよねって感じがしちゃう。会場で配布されてたプログラムの中には情報学環の紹介リーフレットがはさまってて、そこには卒業生の就職先が「これはほんの一部です」とかいって書かれてるわけ。有名な大企業とかの名前が。マルチチュードの抵抗について話を聞きにきた場所で。なんかすごいムズムズするんですよね。あーそういや俺もサラリーマンだよなー、みたいな。


ちなみに抗議声明には

さらに私たちにとっては、もう一つ看過しえないことがある。ジュディット・ルヴェル氏は短期滞在の場合には査証を免除されるフランス人であり、かつ「上陸の拒否」を云々できるような前歴はないにもかかわらず、その彼女にまで、外務省が査証申請を要求したという事実である。

という下りがありますが、これネグリのことよりむしろ大きな問題だと思います。


あ、あともう一つ。本人がこれなくてもスカイプもあるし(今回は普通の電話での通信でしたが)マルチチュードが簡単に国境を越えられる時代になってる、みたいな発言がありましたけど、それはちょっと楽観的すぎな気がしました。インターネットを現在支えているのは市民セクターではないわけですし。ビルマや中国のような例もあるし。わかってて言ってるんだとは思いますけれど。


とりとめのない感想ですが、こんなところで。内容に感動した!ということは全然ありませんでしたが、ネグリの本はこの機会に読んでみようかな、一応。