会津戦争をお笑いのネタにするTBSは恥を知れ

おとといのニュースですが。

　問題としているのは、２月１６日夜に放送された「歴史王グランプリ２００８まさか！の日本史雑学クイズ１００連発！」。この中で、戊辰戦争の際に旧幕府側が会津若松城を明け渡した理由を問うクイズの正解が「糞尿（ふんにょう）がたまり、その不衛生さから」と紹介された。

　市によると、放送前に内容を知り、再三見直しを要求したが聞き入れられなかった。放送直後からは「抗議すべきだ」とのメールが市民から殺到。市議会からも毅然（きぜん）とした対応を求める声が出たという。

僕はその番組を見ていませんが、まったく、信じがたい無神経さです。籠城ですから糞尿がたまることはあったでしょうが、普通に考えれば落城の原因は列藩同盟の瓦解や物資の枯渇でしょう。凄惨な戦いを強いられた人々の死を冒涜する、許せない態度です。事実関係以上に、犠牲者を笑いものにしようというその態度そのものに、人間性が感じられない。
この番組のページを見ると、「内容」はこうなってます。

　お堅いばかりが「歴史」じゃない！歴史好きじゃなくても笑えて、思わず驚く、珍エピソードが盛りだくさん！小学校でも、中学校でも、塾でも教えてくれない興味津々の「歴史雑学」！歴史と聞くと思わず、苦手だと言う人も、この番組を見たら明日から歴史好きに!!

要するに、とにかく様々な歴史上の出来事を「お笑い」のネタにしてやろうという番組なのです。笑える話を見つけてくること自体は特に問題ではないのかもしれませんが、バラエティ番組にありがちな「笑いがとれればそれでいい」という感覚でやっていれば、早晩このような愚かさが露呈するのは避けられなかったことでしょう。

TBSが「糞尿で落城」と笑いものにした、会津の鶴ヶ城籠城戦はどのようなものだったか。最近読んだ星亮一の『会津戦争全史』から、記録や証言を孫引きしてみます。

本丸の大書院、小書院、その他、金の間などは皆、蒲生氏の時、建築するものにして、すこぶる宏壮なり。敵の囲みを受けしより、あるいは病室となし、あるいは婦人小児を収容せり。病室はほとんど立錐の地なきにいたり、手断ち足砕けたる者、満身糜爛したる者、雑然として呻吟す。西軍の砲撃ますます劇烈なるに及びては、榴弾は病室または婦人室に破裂して全身を粉砕せられ、肉塊飛散して四壁に血痕をとどむる者あり。その悲惨悽愴の光景名状すべからず。(pp.183-184)

籠城に参加した女性の証言。

父上に「一番早く死ぬるところはどこなり、教え給え」と申すと、「お前など一人で自害できるものにあらず」と申された。「そのおりには父が介錯する故、心配するに及ばず」と申された。もはや城は破れた、遅れはとらじと、心を鬼にして我が子の「のど」を突いた母もあった。(p.201)

会津に西軍（新政府軍）が入ってきてからは掠奪が横行し、避難して人のいなくなった家々からは家財をぶんどり、強姦や殺戮をくりかえしました。土中に埋められた財産を探すために、地面に水を流して水はけの早さでそれを見つけるということまでしていたそうです。

会津戦争は凄惨をきわめたものでした。殺した敵兵の肝を喰うとか、少年兵の首を酒宴の際に大皿に載せるとか、すさまじい蛮行がありました。野山には遺体が散乱していました。

時に高山霜威激しく天幕はなく筵、薦などをもって身をまといて守兵す。その困難はなはだし。さてまたこの辺（大内峠）の死傷多し。その屍を見るに、首なき多く、あるいは腸破るるものあり。皆、路傍山間渓谷に斃（たお）れ、禽獣に食われし、創口より蛆を生じ、臭気はなはだし。
伊佐住社にて敵、女を裸体になし、斬り殺してありと、その振る舞い、強賊といわざるべけんや。
路傍の斃屍（しかばね）腐乱するを見て、人皆、悽愴せざるはなし。(p.217)

しかも、こうした死者の遺体の埋葬が禁じられるという異常な措置がとられるのです。このこともまた、大きなしこりとなって尾を引いています。

実は僕は高校卒業時には山口県民だったので、あまり「故郷」という思いはないのですが便宜的に「山口出身です」と言うことがあります。相手が会津の人であれば、反応があることがあります。「あー、わたし会津なんですよ。いまだに仲悪いとか言われてますよねー」みたいな穏やかなものがほとんどですが、山口にいるときには正直いって会津戦争についてはほとんど何も知りませんでした。加害の記憶は多くが忘れさられているのかもしれません。しかし傷ついた人々の記憶には長く残るものなのだということを、僕は山口を離れてから知りました。

ともかく、そうした傷はいまだ完全には消えていないわけです。「再三見直しを要求したが聞き入れられなかった」のが事実なら、その「思わず笑える」という視線で歴史を見ることがどれだけ無神経な態度になりうるかを理解するチャンスはあったはずです。にもかかわらずそのまま放送した。よほど「笑える」と思ったのでしょう。会津市長の怒りは察するに余りあります。TBSは恥を知るべきです。

会津戦争全史 (講談社選書メチエ)