文化を産業としてしか見ない人
中国では、日本の人気アニメの登場人物を違法にコピーした商品が大量に出回っているが、浮世絵など知的財産権の対象になりにくい日本の伝統文化にも中国の業者が着目した格好だ。(共同)
アニメなどの知的財産権の対象を違法にコピーしてもらってはもちろん困るんだが、浮世絵については(本物と偽らなければ)何の問題もない。「知的財産権の対象になりにくい」などという言い方はおかしくて、そもそも対象ではないはず。誰がコピーしたって一向にかまわないわけです。ていうか、ミロのヴィーナスの複製とか、モナリザの複製とか、いくらでもあるじゃないですか。
確かに記事はハッキリとは批判していないけど、書き方に嫌味が滲んでますよね。中国人が日本のものを利用して儲けてる、けしからん、という気持なんじゃないかと。冷静に考えれば誰の権利も侵害されていないけど、なんかムカつく、といったところでしょうか。
この記事を書いた人のように「日本の伝統文化は日本人のもの」と思ってる人は多いんでしょうが、僕なんかは日本文化を愛してやまないので、「日本の伝統文化は人類の宝」と思ってますし(マジ)、したがって世界中でもっと多くの人に親しんでもらいたいわけですよ。そうすると、中国人による複製画、おおいに結構、となるわけです。ま、なるべく質は高いほうがいいよね、とかはありますけどね。
つまるところ、文化の価値じゃなくて「誰が儲けてるのか」ばっかり気にしてるからこういう見方になってしまうんでしょう。アサマシイ。文化を産業としてしか見ていない、というのはこういうことです。もちろん文化は産業「でもある」。だけど産業としてしか見ることができない人達*1は、僕はあんまり信用してません。
まあ、文化と産業のせめぎあいっていうのは、それこそ近代日本の最初からある話ではありますが。明治になって西洋との交流が本格化したときに、どうもあっちの文化/産業のスキームとこっちのそれとが食い違ってるなあ、みたいなことは起きてるわけです。それは例えば19世紀の万博に日本が参加しはじめたとき、何をどのジャンルに持っていくかでエラい悩んでたりするところに表われてます。屏風絵とか襖絵って絵画?それとも家具?え、置物って彫刻じゃないの?なんで?みたいな。
でもともかく殖産興業の流れの中に美術・工芸も組み込まれていくんですよね。明治期には、例えば漆器なんかは輸出品として大変人気があったわけです。ま、このへんは江戸時代からそうで、マリー・アントワネットも漆器のコレクターだった。で、殖産興業っていうんで伝統工芸が産業として振興されていったり、そのあたりの演出装置として勧業博覧会が開かれたりする。
あと、たとえば今ふつうに「日本画」なんて言われてるジャンルも、明治になるまで存在しなかったんですよね。「やまと絵」とか「漢画」とかいう言いかたはあったけど、「日本画」なんてなかった。西洋絵画との対比のなかで、それまで別々だった「やまと絵」とか「唐絵」とかの伝統的な画法とひっくるめて「日本画」と呼ぶことになったんですよね。
とか、このあたりの話は『「日本美術」誕生』が大変面白かったのでご紹介。
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ホント明治の人達は苦労してんよなー、とか。