ガマンするのは明日にしよう
「アリとキリギリス」を筆頭として、「将来困るのがイヤなら、いまガマンするべき」っていう寓話は多いですよね。僕たちもそういう考え方が健全で望ましいと思ってます。イヤなことを先送りにしない、将来のために投資する、みたいなのね。実生活でも、老後のために貯金する、将来のために勉強する、夏に向けてダイエットする、とかいろいろあります。
でも、わかっていてもなかなかできないですよね。いま耐えなければならない苦痛っていうのはすぐ避けたくなっちゃう。それで未来の不利益のことを低く見積もって、「まだいいか」みたいにして先延ばしにしてしまいます。
図にすると、
現在(ガマン)=============> 未来(ハッピー)
よりも、
現在(安楽)==============> 未来(苦労)
に傾きがちなわけです。
だけど、よく考えれば人生はこの二択だけではないはずです。現在を楽に過ごし、将来も苦労しないようにする。で、ガマンはその間のどこかでする。
現在(安楽)===(ガマン)======> 未来(ハッピー)
ていうことだってできるはずです。
有名なマシュマロ実験てやつがあります。テーブルにマシュマロがおいてあり、幼児に「15分後にまた来るから、それまで食べずにガマンできたらもう一つあげるよ」といって1人にしておきます。当然ガマンできる子とそうでない子がいるんだけど、その後追跡調査したら、ガマンできた子はよりよい人生を送ってたっていうね。まあこの実験そのものは最近の再現実験では、ガマンできるかどうかはその子の経済的背景による影響が大きいってことだったらしいんですけども。
その後の人生云々はともかくですね、これを少し変えた状況を想像してみてほしいんです。マシュマロのある部屋に入る前に、「これから君はマシュマロの前で15分待つことになる。15分ガマンしたらその後1つ追加であげようと思う。部屋に入る前に15分ガマンするかどうか決めてくれるかな?」と言われたらどうでしょう。マシュマロはあくまで比喩なので、大人が誘惑と戦うことを想像してほしいんですけども。それで、まだマシュマロを目にする前で、1人になる前に決めるんだったら、ガマンを選択するのはずっと簡単だと思えませんか?
似たような話が、アン・ダリエリーの『予想通りに不合理』に出てきます。年金だか退職金だか忘れましたが、ともかく将来のために給料天引きで積み立てる金額を「いま」増やす、というのはなかなか踏み切れない。でも新入社員に対して「将来給料が上がったら拠出する割合を増やす」という選択肢を提示すると、多くの人がこれに同意したという話です。
予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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こんなふうに、ガマンを先送りにするのはわりと簡単なんですね。あとは「先送りにしたガマンを確実に実行すること」をうまく工夫してやればいい。
たとえばいつもランチにお弁当を買っている人がダイエットしようとしているとしましょう。お昼の時間になってお弁当を買いに行くと、もうお腹が空いているのでカロリー控えめのものよりもガッツリしたものを食べたくなってしまうでしょう。そこで、お昼に食べるお弁当を朝のうちに買ってしまうわけです。後で食べるものを今コントロールするのは簡単です。お昼になったらもう買いにくことはせず、朝の冷静な自分が選んだものを食べればいいわけです。昼に買いに行ってガマンするより、ずっと苦痛が少なくて済むはずです。
朝三暮四っていうと私達は愚かな選択をさしていいますけど、自分の愚かさを逆手に取ってものごとを楽にやっていく方法って、結構工夫できそうな気がします。いまガマンするのは難しい、将来困るのも嫌だ。じゃあ将来のためにガマンするのは明日にしよう。結構使えそうだと思いませんか?
『予想通りに不合理』を読んでみてこんなふうに思ったのでした。他にもたくさんのヒントが得られた本なので、未読の方は是非。